不動産投資におけるIRRとは、どんな意味があるでしょうか。この記事ではIRRの意味とその活用について解説します。また、具体例を用いてIRRの目安と収益の関係性を理解しましょう。
もくじ
IRRとは
IRR(内部収益率)は定義とすると、「投資によって得られる将来のキャッシュフローの現在価値と投資額の現在価値が等しくなる割引率」ということですが、わかりにくいですね。IRRの理解に必要な要素を一つずつ解説します。
お金の時間的価値
IRRの意味を理解するためには、お金の時間的価値を理解する必要があります。
例えば、100万円が現在と1年後にあった場合、価値は一緒ではありません。
「現在の100万円」≠「1年後の100万円」
理由は、現在の100万円を投資によって2%の利回りで運用することができると、1年後には102万円の価値になっているからです。
「現在の100万円」=「1年後の102万円」>「1年後の100万円」
したがって、将来のお金の価値は、現在のお金の価値に時間的価値を加えた価値になることがわかります。
(将来価値)=(現在の価値)+(時間的価値)
割引率とは
IRRの意味する割引率について解説します。
上記の例と同様に、現在の100万円を2%の利回りで運用することで、1年後に102万円になります。この現在の100万円から将来の102万円への増加率を「期待収益率」といいます。現在価値と期待収益率を用いて将来価値を算出することができます。
(将来価値)=(現在価値)×(1+期待収益率)
反対に、2%の利回りで運用することで1年後に102万円にしたいと思ったときに、現在では100万円用意できれば、達成できることがわかります。この将来の102万円から現在の100万円の減少率を「割引率」といいます。将来価値と割引率を用いて現在価値を算出することができます。
(現在価値)=(将来価値)÷(1+割引率)
期待収益率と割引率は、実際同じ数値になります。
複利運用
IRRの計算方法は、複利運用の計算が基本になります。
元本と利息を合わせて運用することを複利運用といいます。これに対して、元本のみで運用することを単利運用といいます。
上記の例と同様に、現在の100万円を年2%の利回りで3年間運用するとします。単利運用の場合、毎年利回りの金額(100万円×0.02)の分だけ等しく増えていきます。一方、複利運用の場合、利息の分まで運用に回すため、単利よりも増え方が大きくなります。100万円のn年後の将来価値は以下の式で計算できます。
(将来価値)=100万円×(1+0.02)n
100万円を年2%の利回りで運用した結果 [万円]
- 現在 単利運用100 福利運用100
- 1年後 単利運用102 福利運用102
- 2年後 単利運用104 福利運用104.04
- 3年後 単利運用106 福利運用106.1208
以上より、n年後の将来価値から現在価値を算出するには以下の式を利用できます。
(現在価値)=(n年後の将来価値)/(1+割引率)n
IRRの計算
IRRの定義は、「投資によって得られる将来のキャッシュフローの現在価値と投資額の現在価値が等しくなる割引率」です。簡単に表現すると、「(将来の収益を現在価値に換算した金額)=(投資額)が成り立つ割引率」といえます。将来の収益がわかりれば、現在価値も算出できます。したがって、将来の収益と投資額が決まれば、割引率を求めることできます。
{(1年後の収益)/(1+割引率)1}+{(2年後の収益)/(1+割引率)2}+・・・+{(n年後の収益)/(1+割引率)n}=投資額
IRRの意味
IRRは、投資資金に対する収益率を、回収するまでの期間を考慮したうえで導いています。したがって、限られた資金をどこに投資するかという判断において重要な役割を果たします。
例えば、100万円を投資する案件AとBがあるとします。最終的な収益金額は120万円で同じですが、各年の収益が違っていた場合、IRRも変わってきます。
案件Bの方がIRRが高くなります。この結果は、案件Bの方が早いうちに大きく回収できていることによる違いであり、より効率的な投資であることを意味します。同じ金額でも、遠い将来よりも近い将来に得られるものの方が価値が高いというお金の時間的価値の違いです。
IRRのメリット
投資の収益をはかる指標はいくつか存在します。その中でIRRを活用するメリットや活用が適している場面について解説します。
お金の時間的価値まで考慮されている
IRRの最も重要な特徴は、期間中の収益の変動を考慮して収益率を算出している点です。これにより、毎年の収益が変動するような投資案件も評価することができます。
例えば、不動産投資の場合を考えます。空室率や家賃の変化によって家賃収入が変動します。
また、修繕などの一時的に大きくかかる経費も収益に影響します。IRRでは、これらの変動加味したうえで、初期の投資額と運用期間中の収支、売却価格のすべてを考慮して収益率を算出できます。
一般的に、収益をはかる指標として「利回り」が記載されていることが多いです。例えば、不動産投資では「表面利回り」が表記されていることが多いですが、これは不動産の購入価格に対して、ずっと満室になることを想定した場合の収益を基に求めた利回りになります。
また、利回りには「実質利回り」があり、表面利回りからさらに費用や経費、税金、ローン返済なども加味されるため、より正確な利回りの予測になります。しかし、IRRとは異なり、利回りでは運用期間中の収益の変化は考慮することができません。
限られた資金での収益率の判断に適している
IRRによって効率的な運用ができるかどうかを判断することができますが、特に少ない資本や限られた資本で投資しなければいけない場合の評価に適しています。例えば、手持ちの資金があまりないとき、投資による収益が早期に回収できることが効率よくお金を回していくために重要になります。IRRでは時間的価値を考慮できているため、IRRが大きいほど、限られた資本を効率良く運用することができます。
IRRのデメリット
IRRは上記のようなメリットがある一方で、デメリットもあります。デメリットも把握したうえで使用することが重要です。
投資規模が無視される
IRRのデメリットの1つは、投資規模が無視されることです。IRRは割合である収益率を評価するものであって、絶対値である収益額は評価できないためです。したがって、IRRが低くても大きな収益額が得られる場合はあります。
例えば、投資額100万円のIRRが高い案件に投資することと、投資額1億円のIRRが低い案件に投資することを比べます。
投資金額の規模の違いにより、投資額1億円の案件の方がIRRは低くても収益額が大きくなります。もし、所有資金に困っている人でなければ、投資額1億円の案件の方が大きなリターンが見込めるため、魅力的な選択になります。
必ずしもIRRが高いから良い案件であるわけではないので注意が必要です。
リスクが無視される
IRRのデメリットのもう1つは、リスクが考慮されないことです。
特に不動産投資の場合、最初に不動産を購入する際、自己資金だけでなく借入金を使うことがほとんどです。自己資金のみを初期投資額として計算したIRRを「エクイティIRR」と呼びますが、この場合、少ない投資額で大きな収益を上げられることになるので、IRRが非常に高くなります。
一方で、自己資金と借入金の両方を初期投資額として計算したIRRを「プロジェクトIRR」と呼びますが、こちらの方が案件に対する本来の収益性をはかることができます。一般的な不動産投資の資料では、エクイティIRRで表記されていることが多く、IRRが高くて魅力的に見えます。しかし、多額の借入をすることのリスクが考慮されていないので注意が必要です。
一般に、収益率が高い投資は、その反面で大きな損失リスクも抱えています。IRRによる収益率の判断だけでなく、リスクの可能性を知り、自分自身がどこまで損失リスクを許容できるかを考えたうえで判断することが重要です。
IRRの具体例
実際にIRRによって投資の収益率を評価する場合、どのくらいの数値であればよいのか、また、どのくらいの収益見込みでどのくらいのIRRになるのか、具体例を挙げながら見ていきます。
なお、ここで挙げている具体例の数値はわかりやすさと計算しやすさで設定しているだけなので、現実性は考慮していません。また、ここではプロジェクトIRRで考えます。
IRRの目安
一般的には、不動産投資におけるIRRは5%以上が目安といわれています。
しかし、実際には購入時の借入や物件の築年数、エリアなどによっても収益率は大きく変わるため、明確な目安は存在しません。最終的には、その他のリスクも考慮したうえで、自分自身が納得いくかどうかになります。
IRRの計算:具体例1
以下の条件の不動産投資の案件を検討します。
- 初期投資:20,000,000円
- 5年後に20,000,000円で売却
- 運用中の収益は一定で、500,000円
不動産投資による運用中の収支
収支 [円]
- 初期投資額-20,000,000
- 1年500,000
- 2年500,000
- 3年500,000
- 4年500,000
- 5年20,000,000
この案件のIRRは、2.02%です。
運用中の収益は一定なので、2,000万円の投資に対して、2.5%の利回りで運用していることと同じことになります。しかし、IRRがその利回りよりも低くなっているのは、初期投資と売却価格が同じ2,000万円でも価値としては異なるからです。
(現在の2,000万円)>(5年後の2,000万円)
この案件に対する投資の可否を考えます。
毎年50万円の継続的な収入が増えるのは魅力的に見えますが、不動産のリスクを考慮すると利回りが2.5%は非常に低いと思います。不動産の場合、災害などの予期せぬ事態での家賃や入居状況の変化も考えられ、最悪の場合は5年後に周辺地域の変化によって同じ価格で売れないかもしれません。
予測はあくまで予測なので、実物不動産に関連した想定外のリスクも考慮したうえで、そのリターンで納得できるかどうかを検討するのが良いと思います。
実際、年率2.5%の利回りであれば、株式や投資信託など、よりリスクの低い運用方法でも実現可能です。大きなリスクと手間を負ってまでやるからには、大きなリターンを得たいものです。
IRRの計算:具体例2
以下の条件の不動産投資の案件を検討します。
- 初期投資:20,000,000円
- 5年後に20,000,000円で売却
- 運用中の収益は変動
- 初期投資額-20,000,000
- 1年1,500,000
- 2年1,000,000
- 3年1,500,000
- 4年2,000,000
- 5年20,000,000
不動産投資による運用中の収支
収支 [円]
この案件のIRRは、6.11%です。
2,000万円の初期投資に対して、売却の同じ価格なので、約5年間で運用中の収益である600万円分が増えたことになります。目安といわれるIRRの5%以上は満たしており、これだけの収益が見込めれば検討の余地は十分にあるでしょう。
IRRの計算:具体例3
以下の条件の不動産投資の案件を検討します。
- 初期投資:20,000,000円
- 5年後に15,000,000円で売却
- 運用中の収益は変動
不動産投資による運用中の収支
収支 [円]
- 初期投資額-20,000,000
- 1年4,000,000
- 2年1,500,000
- 3年2,500,000
- 4年3,000,000
- 5年15,000,000
この案件のIRRは、7.10%です。
2,000万円の初期投資に対して、売却価格は1,500万円であり、運用中の収益の合計が1,100万円です。これは具体例2と最終的な収益額が、600万円であることは変わりませんが、時間的な価値を考慮するとIRRが約1%程度高くなります。
具体例2と具体例3のように、初期投資額と収益額の合計が同じ案件があった場合、回収の早さが考慮されているIRRの大小が投資判断の重要な要素として活用できるでしょう。
まとめ
この記事では、不動産投資におけるIRRの意味や活用法について、具体的な数値を用いて解説しました。まとめると以下になります。
- IRRはお金の時間的価値を考慮した収益率を算出する
- 資金の運用の効率さを判断することに適している
- 投資規模とリスクは無視される
- 不動産投資におけるIRRは5%以上といわれるが、個別に検討が必要
IRRの活用は投資の可否判断において、非常に有効な方法の1つです。IRRで考慮できることとできないことを理解したうえで活用し、納得のいく投資判断を行いましょう。
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