FPに聞いてみた

築古物件の落とし穴、アスベストをどう考えるか?

築古物件の落とし穴、アスベストをどう考えるか?

日本の建築物は非常に優秀で、手入れさえすれば長い期間の使用が可能です。例えば、首都圏には洗練されたオフィスビルが多数あるのですが、築年数を聞いてみると50年クラスの物もあり、建築技術の素晴らしさを垣間見ることが出来ます。

しかし、人間のすることは意外に間違いの多い物。しかも歳月が経ってから間違いに気が付く場合も少なくありません。

ここで取り上げるアスベストもその内の1つ。昔は非常に多く使われたのですが、今では使われなくなりました。では、どの様な点に問題があったのでしょうか。

ここでは、アスベストの問題と築古物件をどう考えるかについて取り上げたいと思います。

アスベスト問題は一時期非常に話題になりましたが、いまでも古い物件にはアスベストが使われている可能性はあります。築古物件は割安で魅力的ではありますが、問題も非常に多いです。FPの方にアスベストについて伺ってみました。

知っておきたい!築古物件とアスベスト

まずは、なぜ建築物にアスベストが使われていたかを解説します。

知っておきたい!築古物件とアスベスト

建築物の防火性確保のため

建築物において防火性能は欠かせません。火災は甚大な被害をもたらし、時に人命まで奪ってしまうからです。また、火災は燃え移るので、鎮火が追い付かないならば広い地域が壊滅してしまいます。

アスベストが利用されたのは防火性能が高いからです。

特に、建物が密集して建っている場合には非常に危険です。建物が密集するならば、それだけ燃え広がりやすくなるからです。例えば、地震の後で火事になると周辺一帯に燃え広がる危険性が生まれるのです。

そのために建築物には防火の構造や設備が不可欠とされ、燃えない素材が多く求められる様になりました。

燃えない材料の必要性

この様に建築物には燃えない素材が望まれたのですが、良く使われたのが金属材料と石の素材と言えます。例としては、スチール素材と鉄筋コンクリートなど。この内、スチール素材は防火ドアや防火シャッターに使われました。また、鉄筋コンクリートは建物の基本構造です。

そして、そんな中でアスベストも注目されました。

アスベストは石の素材でありながら加工がしやすく、建築材料としても汎用的に使うことが可能だからです。

また、アスベストは防音や断熱にも使うことが可能。発泡プラスチックなどと違って壁の防火性の向上も狙えるので、一挙両得の効果が期待出来ます。

アスベストとは何か?

それでは、アスベストとはどの様な物質なのでしょうか。具体的に掘り下げてみましょう。

アスベストとは何か?

燃えない素材

先にも挙げた様にアスベストは燃えない素材です。

燃える物を挙げてみると、木材から製造する素材、つまり合板や集成材などがあります。紙なども内装材として使われていますし、セルロースファイバーなども挙げられるでしょう。

また、プラスチック系の素材も石油化学製品のため、燃えやすい物が少なくありません。確かに自己消火性素材はあるのですが、完全に燃えない訳ではありません。

しかし、アスベストはケイ酸塩の鉱物が基本の成分となっている物質のため、燃えません。アスベストの正体は「岩」なので、燃えないのです。

飛散しやすくて吸い込まれてしまう

岩には壊れ方に特徴がある物があります。

例えば、自然の石の粘板岩は板状に分かれる性質があるため、天然スレートとして使われて来ました。屋根材などに現在も使われています。

さて、アスベストは繊維状に壊れることが特徴です。壊れると細かい針の様になります。

ところで、アスベストの壊れ方を見るならば、実際には非常に細かい繊維の様に分かれます。実は、この「繊維状に壊れる」のが問題なのです。アスベストを使うためには切断や切削などの加工が必要なのですが、加工の際に「細かい繊維」の様に飛散してしまいます。そして、作業をしている人に吸い込まれてしまい、著しい健康被害を起こしてしまうのです。

現在では使われない

アスベストは扱いやすい特性がありながら、扱う作業者の健康被害防止のため、今では使われなくなりました。2006年9月1日より、製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁止になったのです。ですから、新しい建築物には使われていません。

アスベスト禁止には段階がありました。禁止は1975年の含有素材の吹付け工事の禁止に始まっています。

尚、アスベストは天然にある物質のために、天然鉱物を原料とする製品だと不純物として残ってしまい、完全にゼロとすることは困難です。ですから、禁止になったのは「アスベスト含有が0.1重量%以下」となっています。

アスベストの危険性

前述の様に、アスベストは加工時の飛散や吸い込まれることが問題です。

アスベストの危険性

では、具体的にはどの様な工程で危険となるのでしょうか。

加工時に飛散する屑について

物を作る時には元となる材料を加工しなければなりません。切断や切削などもありますし、粉末状にする場合もあるでしょう。多くの工程を経て製品となるのです。

ところで、製品の加工の際には招かれざる副産物が発生します。どうしても屑が発生するのです。例えば、木製品を作る現場では木の切り屑が出ます。また、金属製品であっても金属の切り屑が出て来る物です。

これはアスベストでも同じです。切断する場合、切削する場合、穴を開ける場合に屑が発生するのです。そして、アスベストの場合は繊維状に壊れるため、屑が細かい繊維として舞い上がり、それが作業者に吸い込まれてしまうのです。

健康被害について

アスベストは吸い込まれた後に痰などと一緒に体外に一部は出されます。しかし、繊維状になっているため、肺の肺胞に入り込んで長い期間留まることが多いです。そして、30~50年と言う非常に長い潜伏期間を経て、中脾腫や肺がんと言った深刻な健康被害を起こしてしまいます。

尚、アスベスト被害は咳や胸痛となって症状が現れることが多いのですが、放置されてしまうこともあります。その場合には「気が付いたら余命数ヵ月」と言う事態にもなり得ます。非常に危険なのです。

アスベストの使われた場所

アスベストは様々な分野に使われました。それは自動車であったり、機械であったりしますが、建築にも多く利用されています。

アスベストの使われた場所

では、どの様な場所に使われているのでしょうか。

屋根材

屋根は防火上非常に大切な部分です。と言うのも、火炎は上に燃え広がるから。火は屋根を燃やして周辺に広がるのです。

そのため、屋根材には防火性が求められるのですが、アスベストはその要求に応えるために使われたと言えます。アスベストは加工がしやすく、しかも比較的安価な素材なので、屋根材の材料として歓迎されたのです。

具体的には、アスベストを含有させたスレート材が屋根材となっています。

しかし、前述の通り、アスベストの使用は禁止されたので、今の家の屋根には使われていません。ですから、アスベストを避ける意味では新しい物件を選ぶことになるでしょう。

外壁材

外壁材も屋根材と共に防火性が求められます。そのため、燃えないことが非常に大切なのです。

さて、外壁材のアスベスト使用は窯業系サイディングをはじめ、モルタルや吹付け材などに見られます。

これも使われていない物を選ぶ手掛かりは建築時期のチェックとなります。新しい時期の建物は使われていないからです。

断熱材

今の夏場の気温は昔と比較して厳しくなりました。その一方で冬場の寒さは依然として厳しくもあります。住宅はこの様な屋外の温度環境から室内を守らなければなりません。そして、そのために使われるのが断熱材です。

さて、昔の断熱材にはアスベストが使われた物があります。アスベストは繊維状の素材で、燃えないなど、建築用途として優れていたからです。

しかし、今の建物はアスベストが使われなくなり、別な素材で代替しています。

尚、断熱材の1つに「ロックウール」があります。これも鉱物素材なのですが、アスベストと異なり、安全性は高い素材として使われています。

内装材

アスベストは内装材にも使われます。例えば天井材や壁材などです。

火災は多くが室内から発生するため、内装材の防火は重要。そのためにアスベストが使われたのです。

しかし、今では代替素材が使われており、安全性は非常に高くなっています。

吸音材

アスベストは吸音素材としても使われた経緯があります。

吸音材にはいくつもの種類がありますが、その内の1つが繊維状の素材。音が当たった時、音のエネルギーを熱に変換するのです。

アスベストは繊維状の素材で燃えないため、吸音材として使われていたのです。

さて、今の吸音材も繊維状の素材が使われていますが、アスベストでは無く、グラスウールなどの安全な素材が使われています。

投資物件として築古物件をどう考えるか?

アスベストは建築一般に使われて来た経緯があるため、築古物件の多くに含まれているとも考えられます。

投資物件として築古物件をどう考えるか?

では、築古物件に関してはどの様に対応するべきなのでしょうか。

対応には費用が必要

アスベストは使われることに問題があるのでは無く、飛散されることと吸い込まれることに問題がある物。ですから飛散しない様に処置をすれば危険性は大きく低減します。

さて、アスベスト対策には「除去」「封じ込め」「囲い込み」の3通りの手段がありますが、いずれもプロの仕事です。そのため、どうしても費用が発生してしまいます。

当然ながら、この費用はキャッシュフローにも影響しますので、購入の際にはあらかじめ予算を考えておかなければなりません。

ただし、アスベスト対策には補助金が出ることもあります。自治体への確認を確実にすることが大切です。

DIYリフォームの危険性

投資用物件は新築で購入するよりも、中古で購入する方が利回りは良くなります。そして、建物は築年数が経てば、それだけ価格を安くします。ですから、築年数の経った築古物件を敢えて購入し、リフォームして利用する投資家が少なくありません。

ところで、その様なリフォームをDIYで行う投資家がいます。今は建築資材の入手も個人レベルでも可能になったので、DIYでのリフォームも出来るのです。

しかし、投資家によってはアスベストへの配慮無しに工事に掛かる人が居ます。工事中のアスベスト飛散を考えるなら、この工事は危険です。

築古物件のリフォームにはアスベスト対策も必要。健康被害を避けるためにも、対処を忘れてはいけません。

売却に不利

アスベスト問題は昨今に始まった訳ではありません。数十年前から問題視され、その上で使用が禁止になった物なのです。建築に詳しい人であれば問題の深刻さを知っているとも考えられます。不動産投資家においてもアスベストは詳しい人も多いことでしょう。

そのため、物件を売却するには不利になる場合があります。売却の際に、含有のアスベスト対策の説明まで必要となるからです。

また、アスベストへの対処を求められることもあります。当然ながら、この対処にもコストが掛かり、キャッシュフローを圧迫します。アスベスト問題は売却にも影響するのです。

入居希望者への説明も必要となる

不動産を貸すに当たっては物件に関する質問に回答しなければなりません。

さて、前述の通りアスベストの問題は今に始まった問題では無く、知っている人は知っている物。ですから、物件の説明時に質問されるかも知れません。

そして、オーナーの立場ならば、この様な質問にも対応しなければなりません。対策はどの様に取ったのか?なども聞かれる可能性もあるのです。

築古物件を取るか避けるか

以上の様に、築年数のある程度経った物件に関しては、アスベストの問題から避けて通ることは出来ません。購入するのであれば、それなりの対策が必要だからです。そして、アスベストの対処のためのコストを望まないならば、築古物件を敬遠するのも良いでしょう。

しかし、敢えてリスクを取って利回りを上げる戦略があるのも事実です。取得コストを下げるのは非常に魅力的だからです。

ただ、アスベストのリスクを取ったとしても、対処はしっかりとしなければなりません。専門の業者に相談して、最善の対応をすることが非常に大切。コストは掛かりますが、必要な投資です。キャッシュフローに組み入れて、計画時から対応をしておきましょう。

まとめ

築古物件とアスベストについて取り上げました。アスベストの問題が重大なこと、対処に関しても理解が深まったことと思います。

さて、アスベストは難問なのですが、不動産投資家としては真正面から取り組まなければなりません。敬遠するにしても、対処するにしても、記録しながら取り組まなければなりません。問題を後回しにせず、しっかりとアクションを取りましょう。

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清水みち代

関東在住の30代女性。 生保代理店で窓口営業に従事していましたが、コロナの影響で休業中。 自宅にいる時間に資格取得に目覚め、通関士、宅地建物取引主任者、FP2級、総合旅行業務取扱管理者の各資格を取得。 将来の目標は、北海道での「田舎暮らし」。

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