不動産投資の投資用物件は、必ずしも理想の物件が見つかるとは限りません。ケースにもよりますが、妥協しなければならない場合があるのも確かです。物件の立地条件を考える際においても妥協点を探すことにもなり得るでしょう。
ところで、不動産は平地に建っているとは限りません。傾斜地を造成して造っている場合もあります。その場合にあるのが擁壁(ようへき)です。擁壁のある傾斜地の建物は平地では無いので、独特の注意点があります。
また、擁壁は建物では無いので、もしかしたら重要視されないかも知れません。しかし、土地の条件を決めるため、不動産投資においても知っておくべき知識なのです。
そこで、ここでは擁壁について取り上げ、どの様な物か、リスク、チェックポイントなどを解説したいと思います。
もくじ
擁壁について
まずは擁壁について解説します。
擁壁とは何か
土地は斜面が付くと崩れる可能性が大きくなります。地質にもよりますが、斜面が急になる場合、例えば崖などは一般の坂道よりも崩れやすいです。雨が降った場合に崖の土砂崩れのリスクが高まりますが、これは急な傾斜が原因の1つにもなっています。
さて、傾斜地に宅地を設けるには段を作って平地を作るのが一般的です。手段としては、土地を切り、また盛ることによって土地に段を付けて宅地化します。この時、段の上の土地と下の土地では崖の様な急勾配が付いてしまうので、そのままでは崩れるリスクが大きくなってしまいます。
擁壁はこの様な急傾斜の部分に設ける壁状の構造物。段の部分の土砂崩れの防止を目的としています。
強度が最重要
擁壁の目的は崖崩れの防止です。ですから、強度が最重要になります。仮に強度が十分で無い場合には崖崩れのリスクが大きくなるからです。
そのため、擁壁には強度の高い材料が使われています。例えば、鉄筋コンクリートの擁壁は、強度保持に秀でた格好の擁壁と言うことが出来るでしょう。
その一方で、強度に不安が残る様な擁壁も無い訳ではありません。後述しますが、法的に不適格の物、構造的に危険な物があるのです。
ですから、投資用物件を探す際には擁壁の状況までしっかりと見なければなりません。仮に見落としがあった場合には建物の危険も出て来ますので、入念に確認をしましょう。
擁壁の種類について
次に擁壁の種類を挙げてみましょう。
主な擁壁には4つの種類があって、それぞれに特徴があります。
鉄筋コンクリート擁壁
鉄筋コンクリート製の擁壁で強度が高い点が特徴です。鉄筋コンクリートはコンクリートの中に鉄筋を埋設した物ですが、圧縮や引っ張りに強いだけでなく、曲げなどにも強い優れた素材。そのため、耐震性にも優れる非常に強い擁壁となります。
また、擁壁には土地の形状によりT字形の物、L字形の物もありますが、鉄筋コンクリート擁壁はこの様な複雑な形状にも対応しやすいです。
他にも、外観もスッキリとした形状となるので、住宅の景観をより良い物にします。
無筋コンクリート擁壁
無筋コンクリート擁壁はコンクリートに鉄筋を入れずに造った擁壁。鉄筋が入っていない分、強度が劣ってしまい、ヒビが入りやすいです。そのため、土地を購入する際には地盤のチェックなども重要となります。
投資用物件は中古の方が有利。古い物件に目が行ってしまう物ですが、なかなか擁壁にまで気が回りません。しかし無筋コンクリート擁壁の土地であればヒビが入って強度が落ちているリスクもあるので、購入前のチェックが非常に大切と言えます。
間知ブロック積擁壁
間知ブロック積擁壁は昔から造られて来たポピュラーな擁壁です。間知ブロックは鉄筋コンクリート擁壁などと比べてコストパフォーマンスも良く、軽量で扱いやすい特徴があります。
また、擁壁は地形に合わせて様々な納まりに対応させなければなりませんが、間知ブロックはバリエーションも多いため、複雑な擁壁でも対応が可能です。
尚、間知ブロックは宅地に使われているだけではありません。河川や道路など、多くの場所でも使われています。つまり、間知ブロック擁壁はそれだけ多くの実績がある擁壁と言えるのです。
石積み擁壁
石積み擁壁とは、その名の通り石を積んだ擁壁です。練り石積み擁壁と空石積み擁壁の2種類があります。
前者の練り石積み擁壁は、積み上げた石の隙間をコンクリートやモルタルなどで充填して強度を挙げた擁壁です。他方、空石積み擁壁は石を積み上げただけの簡素な擁壁で、強度面で劣ります。
ちなみに古い物件の場合は空石積みであっても石材職人の腕が良く、堅牢な物も多かったと言われます。しかし、その様な技術を踏襲する職人は多くはありません。そのため、空石積み擁壁のある物件は注意が必要です。
擁壁に関係する法律について
擁壁はそれだけ見ると簡素な物ですが、土砂崩れを防ぐなど、非常に重要な役目があります。そのため、擁壁は法的にも規制され、品質が保たれなければなりません。
ここでは擁壁に関係する代表的な法律を挙げてみます。
建築基準法
擁壁は建築基準法にて定められています。
内容としては擁壁の仕様の規定、確認申請の規定、安全対策などを盛り込んでいます。
擁壁の法的な規定としては、崖崩れ防止のための設置について記してあります。そして、建築基準法には施行令があり、擁壁の具体的内容が示されています。また、擁壁に関しては自治体の条例も関係しています。
擁壁は安全確保が大切ですが、法的に様々な角度から考えられていると言えるでしょう。
尚、擁壁は現場単位で状況が変わります。地盤の強度や地形の違いなどがありますが、それぞれが構造計算によって確認されることとなっています。計算でも安全性が確認されるので、安心出来る設計がされると言えるでしょう。
宅地造成等規制法
擁壁に関係する法律には宅地造成等規制法という法律もあります。
この法律は崖崩れや土砂災害などの危険性のある宅地造成についての法律で、災害防止のための規制を記しています。制定されたのは1961年。ちょうど大型の住宅地が開発された時期に合致しています。
この法律では区域を設定して、工事の許可制度を設けています。例えば、造成地には切土と盛土がありますが、切土の場合は高さが2mを超える崖(30°以上の斜面)を生ずる工事の場合は都道府県知事などの許可が必要などと言ったルールを設定しています。
擁壁のある物件のリスク
ここで、擁壁のある物件のリスクについて、不動産投資の観点から考えてみたいと思います。
投資用不動産は入居者の安全性の確保が最低条件です。擁壁は物件と入居者の安全性に大きく関係するので、注意深く無くてはなりません。
劣化のリスク
擁壁は石やコンクリート製の構造物。非常に長持ちする素材です。
しかし、長持ちする素材の擁壁であっても劣化のリスクは避けられません。耐用年数としては、条件にもよりますが30~50年とも言われます。そのため、ある一定の年数が経った時点でのメンテナンスが必要です。
そして、そのための費用を確保しなければなりません。擁壁のメンテナンスは安い訳では無いので、少なからずキャッシュフローに影響します。
ですから、物件購入の段階から建物の大規模改修と同様に、擁壁に関してもメンテナンス費用を考えておく方がベターです。
不適格の擁壁もある
擁壁に関する法律は新しい法律ではありません。そのため、擁壁は基本的には法的にクリアしていると言えます。
しかし、全部の擁壁はクリアしているとは限りません。法律が出来る前に造られた様な、不適格の擁壁もあるのです。
不適格の擁壁は強度で劣るケースもあり、使い続けるのには危険な物もあります。
そのため、投資用物件として擁壁のある物件を購入する際には、その擁壁が基準に適合しているかを十分に確認する必要があります。
物件を購入してからの補修は簡単ではありません。購入前に全部のチェックをしておきましょう。隣家とのトラブルになりやすい
擁壁には越境の問題が発生しやすく、時として隣家とのトラブルにも発展し得ます。
例えば、擁壁には基礎がありますが、擁壁の形状によって基礎部分が境界に抵触する場合も出て来ます。
また、擁壁はメンテナンスが必要ですが、メンテナンス費用の負担で揉めることもあり得るのです。
見通しが悪い場合には防犯性に問題が出る
建物が擁壁に近い部分に建っている場合には見通しが悪くなる場合もあります。また、擁壁に向かう面に窓が付いていると、見通しの悪い部分での侵入がしやすくなります。窃盗などの侵入犯罪が起こりやすくなるのです。
危険な擁壁について
前述の様に、擁壁は法的に多くの制限が設けられており、安全性が確認されています。
しかし、それでも完全に安心出来るとは限らず、危険な状態の物も存在します。
そこで、ここでは危険な擁壁の2つのパターンを挙げてみて、それぞれの特徴を解説します。
古すぎる擁壁
第一に挙げられるのが「古すぎる擁壁」です。
前述の様に、宅地造成法等規制法は1961年制定の法律です。多くの造成地はその時代に造られました。しかし、擁壁によっては法規制が始まる前に造られた土地も確かにあります。
その様な擁壁はメンテナンスが不完全な物も多く、劣化していて危険な物もあります。
二段擁壁・増し積み擁壁
擁壁には「二段擁壁・増し積み擁壁」と呼ばれる擁壁があります。古い擁壁の上に追加で擁壁を造る物です。
この擁壁の問題点は強度です。元々の擁壁である下の部分は増し積みまでを考えて造ってあるとは限りません。あくまでも下の地盤のために造った擁壁なのです。二段擁壁・増し積み擁壁は、この擁壁の上に更に高い擁壁を造る物。土砂の圧力が多く掛かる様に出来ているので、強度に問題が出るのです。
擁壁のチェックポイント
それでは、擁壁のチェックポイントにはどの様な物があるのでしょうか。
ひび割れの有無
擁壁にひびが入ると、その部分の強度が落ちてしまいます。特に雨が降った時などは危険です。
土地の安全性は物件で生活する人の安全性にも強く結びつきます。ですから、投資用物件を探す際には擁壁のひびの有無を調べなければなりません。
剥離
石積には隙間をコンクリートやモルタルなどで塞ぐ物がありますが、場所によっては塞いだ部分が剥離が発生している物もあります。当然ながら、その様な剥離した部分は壊れやすくなるので、その擁壁に接する土地の購入には注意するべきです。
膨らみ・変形
擁壁は基本的には整った形状をしています。仮に曲面の部分であったとしても歪んだ形状はしていない物です。
ですから、異常とも思える膨らみや変形のある歪んだ擁壁は、何等かの異常があると判断するべきです。
変形がある場合の最も疑わしいのが、擁壁の内側の土砂から力が掛かった場合。状態にもよりますが、破損のリスクも出て来るので、購入を避けるのが賢明です。
継ぎ目・目地部分の異常
擁壁には継ぎ目や目地がありますが、その部分に異常が認められる物も危険です。
これも土圧などによる物。状況によっては破壊もあり得るので、購入しない方が良いでしょう。
水抜き穴の状態
擁壁には水抜き穴が開いています。これは擁壁内側に溜まった雨水を排出するための物。仮に塞がっている場合には、擁壁の内側に雨水が溜まってしまい、破損の原因となります。
擁壁を見る際には水抜き穴に問題が無いか確認が必要です。時として雑草が生えていて塞ぐこともあるので、確認の際には注意しましょう。
まとめ
投資用不動産の擁壁について取り上げました。
擁壁はあまり目立たない存在かも知れません。しかし、土砂崩れ防止などの危険性から守る非常に大切な部分です。ですから、投資用不動産を購入する時には擁壁もしっかりと造られている物件とするべきです。
物件の安全性は入居者の安全性、更には不動産投資ビジネスの安定性にも繋がること。入念に確認をして、より良い物件を購入しましょう。
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